大阪高等裁判所 平成6年(う)975号 判決
検察官の論旨は,要するに,原判決は,犯人隠避教唆に当たる事実を認めながら,犯人自身が身代わり犯人を立てて自首させる行為は犯人隠避教唆に該当しないとして,犯人隠避教唆の公訴事実につき無罪を言い渡したが,これは刑法103条及び61条の解釈適用を誤ったものであり,この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるという,法令解釈適用の誤りの主張である。
そこで,所論にかんがみ,記録を調査して検討するに,前記犯人隠避教唆の公訴事実に関する原判決の説示には賛同し難く,結論において所論は正当である。すなわち,
1 原判決は,(1)刑法103条は犯人自身が行う隠避行為を処罰するものではないところ,犯人が身代わり犯人を立てて自首させる行為は,それ自体が不可罰な犯人自身による隠避行為に当たると解されるから,これを犯人隠避教唆罪として可罰的であると解するのは疑問があること,(2)仮に上記行為が外形上は犯人隠避教唆罪に当たるとしても,犯人は他人を巻き込んでも共同正犯として処罰されることはないのであるから,より軽い関与形式である教唆犯としても処罰されないと解すべきであることなどを理由として,犯人が身代わり犯人を立てて自首させる行為は,犯人隠避罪又はその教唆罪のいずれにも該当しないとし,無罪を言い渡している。
2 しかし,犯人が身代わり犯人を立てて自首させる行為は,情を知らない他人を利用して移動や宿泊の便宜を図るなどの単純な自己隠避行為の場合や,たまたま既に他人が身代わり犯人として立つ犯意を生じているのに乗じて,共同正犯の形態でその者に身代わり犯人として自首してもらうような場合と異なり,自ら積極的に他人に働き掛けて犯意を生じさせた上,犯人一人では不可能な身代わり犯人の自首という実効性の高い方法によって自己を隠避させようとするものである点で,本来の防御の域を著しく逸脱したものと言わざるを得ず,その他人について犯人隠避罪が成立する以上,これに対する教唆罪の成立を否定すべき理由はない。犯人が身代わり犯人を立てて自首させる行為は,犯人隠避教唆罪に当たると解すべきである(大審院昭和8年10月18日判決・刑集12巻1280頁,最高裁昭和35年7月18日判決・刑集14巻9号1189頁,最高裁昭和60年7月6日決定・判例時報1176号151頁)。
そして,原審で取り調べた関係各証拠によれば,優に公訴事実のとおり犯人隠避教唆罪の成立が認められる。原判決には,検察官の所論指摘の法令解釈適用の誤りがあり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから,被告人の控訴趣意(量刑不当の主張)については判断するまでもなく,原判決は全部破棄を免れない。